猫を殺せば、たとえ事故でも死刑になる。古代エジプトを訪れたギリシャの歴史家は、そんな記録を書き残しています。
古代エジプトといえば、ピラミッドやミイラを思い浮かべる人が多いでしょう。けれども王の呼び名の由来や職人が仕事を休んだ理由、医者の変わった肩書きまでたどると、約3000年続いた文明の意外な素顔が見えてきます。
そんな古代エジプトにまつわる雑学を12個ご紹介します。研究にもとづく項目には出典を添えています。
ファラオと神々の国のしくみ
まずは古代エジプトという国の土台になった、王や文字、暦のしくみから見ていきます。
1. ファラオの語源は「大きな家」

古代エジプトの王を指す「ファラオ」は、もとは「大きな家」という意味で、宮殿を表す言葉でした。王その人をこう呼ぶようになったのは新王国時代からで、正式な称号にはなっていません。
本当の称号は5つあり、そのひとつが「ラーの子」です。王は太陽神ラーの息子とされ、神々と人々をつなぐ存在でした。
出典:ブリタニカ
2. 付け髭姿で描かれた女王

紀元前15世紀に約20年間エジプトを治めたハトシェプストは、女性でありながら王として即位しました。残された像の多くは、王の頭巾と腰布に付け髭までつけた、男性の王の姿で作られています。
ところが亡くなって20年ほどたつと、彼女の像は次々に壊されていきました。
出典:メトロポリタン美術館
3. 1400年読めなかった文字

ヒエログリフは、古代エジプト人が自ら「神の言葉」と呼んだ文字です。記号の数は中王国時代で約750、プトレマイオス朝では数千にまで増えました。
確認できる最後の碑文は394年のもので、その後は読める人がいなくなります。フランスのシャンポリオンが解読に成功したのは1822年。およそ1400年ぶりのことでした。
※「プトレマイオス朝」は古代エジプト最後の王朝です。
4. 1年の季節はたった3つ

古代エジプトの1年は、春夏秋冬ではなく3つの季節に分かれていました。ナイル川があふれる「氾濫」、水が引いて作物を育てる「生育」、そして「収穫」の季節です。
それぞれ30日の月が4つずつで、川の動きがそのまま暦でした。この暦を受け継ぐコプト暦の月名は、今もエジプトの農家が種まきの目安にしています。
※「コプト暦」はエジプトのキリスト教徒に伝わる暦です。
出典:Egyptian Streets(2023年)
ミイラと死後の世界の真実
続いては、古代エジプト人が何より大切にした死後の世界と、ミイラをめぐる後の時代の話です。
5. 猫を殺せば事故でも死刑

猫は女神バステトの聖なる動物とされ、ギリシャの歴史家ヘロドトスは、飼い猫が死ぬと家族が眉を剃って喪に服したと記しました。
同じくギリシャのディオドロスは、猫を殺した者は故意でなくても死刑になると伝えています。ローマ人が猫を殺して群衆に殺される場面を、自分の目で見たという記録です。
※「バステト」は猫の姿で表されるエジプトの女神です。
6. 脳は捨てて心臓は残した

ミイラ作りには70日ほどかかりました。まず鼻の穴からかぎ状の道具を差し込み、脳を少しずつかき出します。取り出した脳は保存されず、捨てられたとみられます。
一方で、心臓だけは体の中に残されました。人の心や知恵が宿る場所と考えられていたからです。胃や肝臓、肺と腸は取り出され、専用の壺に納められました。
出典:スミソニアン協会
7. 心臓に口止めするお守り

「死者の書」は、あの世へ無事にたどり着くための呪文を集めた巻物です。死後の審判では、心臓が真理の女神の羽根と天秤で比べられると信じられていました。
そこで作られたのが心臓スカラベというお守りです。審判の場で心臓が持ち主に不利な証言をしないよう頼む呪文が刻まれ、ミイラの胸の上に置かれました。
※「スカラベ」はフンコロガシのことで、再生の象徴とされた甲虫です。
出典:メトロポリタン美術館
8. ミイラは薬として日本にも

ヨーロッパでは12世紀ごろから、ミイラを砕いて薬にするようになりました。アラビア語で薬用のアスファルトを指す言葉を、ミイラと取り違えたのが始まりとされます。
日本にも17世紀中ごろからオランダ船などで輸入され、200年近く続きました。「ミイラ」という日本語は、香料の没薬「ミルラ」がなまったものです。
※「没薬」は「もつやく」と読み、木の樹脂から作る香料です。
出典:小学館
9. ツタンカーメンの呪いの正体

1922年にツタンカーメンの墓が見つかり、翌年に出資者のカーナヴォン卿が亡くなると、新聞は「ファラオの呪い」と騒ぎました。実際の死因は、蚊に刺された跡をひげそりで傷つけて起きた感染症です。
墓に呪いの言葉は刻まれていません。2002年の研究でも、開封に立ち会った25人とそうでない人の寿命に差はなかったのです。
出典:BMJ(2002年)
職人と医者の意外な日常
最後は、王家の墓を造った職人や医者たちの記録から、人々の日々の姿をのぞいてみます。
10. 欠勤の理由はビール造り

王家の墓を造った職人の村では、誰がなぜ仕事を休んだかまで記録されていました。紀元前1250年ごろの石灰岩の板には、40人の職人の欠勤理由が並んでいます。
最も多いのは病気で、「サソリに刺された」という理由もあります。研究者の訳によれば「兄弟のミイラ作り」や「ビール造り」で休んだ職人もいたようです。
出典:大英博物館
11. 麦の芽で調べた妊娠検査

約3500年前の医学パピルスには、尿で妊娠を確かめる方法が書かれています。女性の尿を大麦と小麦にかけ、芽が出れば妊娠、どちらが先に芽吹くかで男女がわかるというものでした。
1963年の検証では、妊婦の尿をかけると約7割で芽が出たと報告されています。ただし、男女を見分けることはできませんでした。
※「パピルス」は植物の茎から作った、紙のような書写材です。
出典:スミソニアン協会(2018年)
12. 王の肛門を守る医師がいた

ギザで見つかった約4200年前の医師イリの墓の扉には、「王宮の目の医師」「王宮の腹の医師」といった肩書きが刻まれています。その中には「肛門の守り手」と訳される称号まであるのです。
ギリシャの歴史家ヘロドトスも、エジプトの医師は1人が1つの病気しか診ないと書いています。
まとめ
古代エジプトの雑学を12個ご紹介しました。
「ファラオ」はもとは宮殿を指す言葉で、王の正式な称号ではありませんでした。ミイラ作りでは脳は捨てられ、心臓だけが体に残されています。そのミイラが後の時代には薬になり、日本にまで運ばれたのも意外な話でしょう。
職人の欠勤記録や麦を使った妊娠検査からは、神々や王だけではない人々の暮らしが見えてきます。遠い時代の話でも、休みの理由や体の悩みは今と似ているのかもしれません。
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更新日:2026年10月7日(水) 12:13

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