古代エジプトでは、なんとレタスが媚薬だと考えられていました。江戸時代の日本では、イモリの黒焼きが惚れ薬として売られていたほどです。
人は昔から、恋心を薬で動かせないかと考えてきました。ただし、ここで紹介する話には言い伝えや諸説あるものも含まれ、科学で効き目が確かめられたものはほとんどありません。
そんな媚薬にまつわる雑学を12個ご紹介します。研究にもとづく項目には出典を添えています。
古代の人が信じた媚薬
まずは、古代の人々が媚薬をどう考えていたのかを見ていきましょう。言葉の由来から、歴史に残るうわさまで紹介します。
1. 語源は愛の女神アフロディテ

英語で媚薬を表す「aphrodisiac」は、ギリシア神話の愛と美の女神アフロディテの名から生まれた言葉です。英語での初出は1719年とされます。
日本語の「媚薬」には、辞書で2つの意味が並べて書かれています。性欲を高める薬と、相手に恋心を起こさせる「惚れ薬」です。
※aphrodisiacは「アフロディジアック」と読みます
2. レタスは古代エジプトの媚薬

紀元前2000年ごろの古代エジプトでは、レタスが媚薬とされていました。豊穣の神ミンの聖なる植物として、神のそばに描かれています。
理由は、まっすぐ伸びる姿と、葉を折ると出る白い汁だったようです。一方で古代ギリシアやローマでは、レタスは逆に眠りを助ける食べ物とされたのです。
※豊穣(ほうじょう)は、作物が豊かに実ることです
出典:スミソニアン・マガジン
3. 媚薬より愛される人になれ

古代ローマの詩人オウィディウスは、恋の手ほどきの詩『恋愛術』で媚薬を戒めました。媚薬は心を傷つけ、狂気を招くと書いたのです。
その直後の一節が「愛されたいなら、愛される人になりなさい」。歴史家スエトニウスは、皇帝カリグラが妻に惚れ薬を飲まされて正気を失ったと考えられていた、と記しています。
※スエトニウスは、ローマ皇帝たちの伝記を書いた歴史家です
4. クレオパトラの媚薬は作り話?

クレオパトラが媚薬でアントニウスを惑わせたという話には、確かな史料が見つかっていません。伝記作家プルタルコスも、アントニウスが薬にかかったように彼女を見つめていた、と描いただけです。
同じ伝記には、2人の敵オクタウィアヌスが「アントニウスは薬を盛られ、もはや自分の主人ではない」と宣言したことも記されています。「男を惑わす女王」の姿は、敵側の宣伝から広まったという見方が有力です。
※アントニウスは、クレオパトラと手を組んだ古代ローマの将軍です
※プルタルコスは、後世のギリシアの伝記作家です
※オクタウィアヌスは、のちのローマ初代皇帝アウグストゥスです
言い伝えと物語の中の媚薬
媚薬は、伝説や古い書物、庶民の暮らしの中にも登場します。ヨーロッパと日本の話を見ていきます。ここからは、言い伝えや諸説ある話もあります。
5. 飲み間違えた惚れ薬の悲恋

中世ヨーロッパの伝説では、騎士トリスタンと姫イゾルデが船の上で惚れ薬を誤って飲み、許されない恋に落ちます。薬は、王に嫁ぐ娘へ母が用意したものでした。
この形は12世紀後半の物語に見られます。1865年(慶応元年)初演のワーグナーの楽劇では、侍女が死の薬を惚れ薬にすり替える筋です。どちらでも媚薬は悲劇の道具なのです。
※楽劇(がくげき)は、音楽と劇を一体にしたオペラの一種です
6. 日本最古の医書に残る教え

984年(永観2年)、宮中の鍼博士・丹波康頼が全30巻の医学書『医心方』を朝廷に献上しました。現存する日本最古の医学書とされ、第28巻は夫婦の営みと健康を説く巻です。
ここには中国の房中術の書が引用されています。それらは中国では失われ、医心方のおかげで残りました。半井家本の医心方は1984年(昭和59年)に国宝に指定されています。
※鍼博士は「はりはかせ」、丹波康頼は「たんばのやすより」、医心方は「いしんほう」と読みます
※半井家本(なからいけぼん)は、半井家に伝わった写本です
※房中術(ぼうちゅうじゅつ)は、夫婦の営みを通じて健康を保とうとする術です
※完成を982年とする説もあります
7. イモリの黒焼きで恋がかなう?

江戸時代、イモリの黒焼きは惚れ薬として売られていました。雌雄を節で仕切った竹筒の両端に入れると、一晩で節を食い破って一緒になる、という言い伝えがもとです。雌雄を別々に焼いた粉が恋に効くとされたのです。
江戸の両国には、秘薬を専門に扱う「四つ目屋」という店もありました。効き目は、言い伝えにすぎません。
※四つ目屋は「よつめや」と読みます
科学が調べた媚薬の正体
最後は、媚薬とされてきたものを科学の目で見ていきます。意外な正体が明らかになったものもあります。
8. 媚薬とされた甲虫は猛毒

スペインバエという甲虫の成分カンタリジンは、古代から媚薬とされてきました。実は、ごく少量でも命に関わる猛毒で、胃腸や腎臓を傷つけます。
1772年、サド侯爵はこれを混ぜた菓子を女性たちに与え、体調を崩させました。裁判所は本人不在のまま死刑を言い渡し、代わりに人形が焼かれたのです。
一方で2023年(令和5年)、アメリカの食品医薬品局はこの成分の塗り薬を水いぼの治療薬として承認。媚薬とされた毒が、薬に生まれ変わりました。
※スペインバエはハエではなく、ツチハンミョウの仲間の甲虫です
※サド侯爵は18世紀フランスの作家です
※水いぼは「伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)」という皮膚の病気です
出典:米国食品医薬品局(2023年)
9. サイの角は媚薬ではない

サイの角が媚薬として密猟されている、という話は広く信じられた誤解です。伝統的な中国医学では、サイの角はおもに熱を下げる薬として使われてきました。
角の成分はほぼケラチンで、髪や爪と同じもの。科学的な効き目は確かめられていません。それでも誤ったうわさが、密猟の理由として語られてきました。
※ケラチンは、髪や爪をつくるたんぱく質です
※密猟(みつりょう)は、法律に違反して動物をとることです
出典:PBS Nature
10. カキが恋の食べ物になった訳

カキが恋の食べ物とされるのは、18世紀のカサノヴァの影響が大きいようです。回想録で、カキを恋の戯れに使ったと書いています。「朝食に50個」は出典不明の俗説です。
2005年(平成17年)、二枚貝にホルモンに関わるアミノ酸が含まれるとアメリカ化学会で発表され、「カキは媚薬」と報じられました。ただ調べたのはムール貝などで、人での効果は未確認です。
カキの亜鉛が1食分でどの食品より多いことは、米国立衛生研究所が示しています。
※カサノヴァは、恋愛遍歴で知られるイタリア出身の作家です
※亜鉛(あえん)は、体に欠かせないミネラルの一つです
出典:米国立衛生研究所(NIH)/ヘルスデイ(2005年)
11. フェロモン香水に効果はある?

「ヒトのフェロモン」をうたう香水に、効果の確かな証拠はありません。2017年(平成29年)、西オーストラリア大学が候補物質を94人に二重盲検で試しましたが、性別の判断にも魅力の評価にも影響はなかったのです。
トリュフ探しのブタも、フェロモンに似た成分が理由とされましたが、1990年の研究では別の香り成分が決め手とされました。
※二重盲検(にじゅうもうけん)は、実験する側もされる側も、どちらが本物か知らずに行う方法です
※ヒトにフェロモンがまったくないとまでは言えず、未発見の可能性は残ります
出典:西オーストラリア大学(2017年)
12. 媚薬は本当に効くのか

アメリカの食品医薬品局は1989年(平成元年)、市販の媚薬に安全で有効な成分はないと結論づけました。表示は誤りか根拠がないとしたのです。
日本でも2015年(平成27年)、厚生労働省が強壮をうたう健康食品を調べました。50製品中33製品から医薬品の成分が見つかり、使用中止を呼びかけています。「効く」の正体は、薬の混入か思い込みでしょう。
※強壮(きょうそう)は、体を丈夫で元気にすることです
※効くと信じる思い込みで体調がよく感じられることを「プラセボ効果」といいます
出典:米国食品医薬品局(1989年)/厚生労働省(2015年)
まとめ
媚薬を表す英語の語源は、愛の女神アフロディテです。古代エジプトのレタスから江戸時代のイモリの黒焼きまで、人は時代や場所を変えて恋の薬を求めてきました。クレオパトラの媚薬のように、敵を悪く言うための宣伝から生まれた話もあります。
一方で、科学が調べた「媚薬」の多くは、効き目が確かめられていません。スペインバエのように猛毒だったものや、健康食品に医薬品の成分が混ざっていた例もあります。
「愛されたいなら、愛される人になりなさい」というオウィディウスの言葉は、今の時代にも通じる助言かもしれません。
あわせて読みたい
更新日:2026年11月5日(木) 03:50

結婚指輪の雑学12選!左手薬指の「愛の血管」は誤りだった
動物の求愛行動が変すぎる選手権11選!プロポーズは尿シャワー
結婚指輪の雑学12選!左手薬指の「愛の血管」は誤りだった
下ネタが語源の日常語の雑学14選!モテるは客の側だった
貞操帯の雑学11選!大英博物館が「贋作」と登録した理由
禁欲思想から生まれた発明品の雑学12選!コーンフレークの俗説
性別を変える生き物の雑学12選!ウミガメの99%がメスになった海