生き物の性別は生まれたときに決まって、一生変わらないもの。私たちはなんとなくそう思っています。
ところが海や庭先には、途中で雄から雌へ、雌から雄へと切り替わる生き物が数多くいます。群れの中の立場、体の大きさ、卵が育つ砂の温度。きっかけはさまざまで、なかには何度も行き来する種までいるのです。
そんな性別を変える生き物たちにまつわる雑学を12個ご紹介します。研究にもとづく項目には出典を添えています。
社会の空気で性が変わる
まずは、まわりの顔ぶれしだいで性別が決まる生き物たちから。誰がいて誰がいないかを体で読み取り、足りない役割へ回っていきます。
1. クマノミは序列で性が決まる

イソギンチャクに暮らすクマノミの仲間は、群れで一番大きな個体が雌、二番目が繁殖役の雄になります。ほかの小さな個体は繁殖に加わりません。
雌がいなくなると、繁殖役だった雄の体が雌へ変わり、三番目が繰り上がります。性別を決めるのは生まれつきの体ではなく、群れの中の立ち位置なのです。
※カクレクマノミを含むクマノミ属に共通する性質とされます。
出典:Frickeらの研究チーム(Nature、1977年)
2. 数分で雄に切り替わる魚

サンゴ礁にすむブルーヘッドラスは、群れの雄がいなくなると、残った雌のうち最も強い一尾が数分で体色と行動を雄のものに変えます。
体の内側の変化はゆっくりで、卵巣が精巣に入れ替わるまでには10日から21日ほどかかるようです。引き金は社会的なストレスで、遺伝子の読み方そのものが書き換わると報告されています。
出典:オタゴ大学などの研究チーム(Science Advances、2019年)
3. 性別を何度も行き来する魚

沖縄の海にすむオキナワベニハゼは、相手の体格しだいで性別を切り替えます。雌から雄へは7日以内、雄から雌へは11日ほどで性別が切り替わり、珍しいのは一方通行ではなく何度でも往復できる点です。
ペアを組む相手が変われば、その度に都合のよい側に回り、柔軟さそのものが繁殖の戦略になっているのでしょう。
※オキナワベニハゼはハゼ科の小型魚です。
出典:Sunobeらの研究チーム(Ichthyological Research、2005年)、Manabeらの研究チーム(Journal of Fish Biology、2007年)
4. 重なって暮らす貝の都合

スリッパガイは岩や仲間の殻の上に何個体も積み重なって暮らす巻貝です。下側にいる個体が雌、上に乗った個体が雄という役割分担ができています。
実験では、雌との接触が絶たれた雄が雌へと変化しました。相手が近くにいるかどうかを体で感じ取り、足りない側に回っているようです。
※スリッパガイは北米沿岸に多い巻貝の仲間。
出典:Cahillらの研究チーム(The Biological Bulletin、2015年)
育つと性別が入れ替わる
続いては、成長そのものが引き金になる例です。食卓でおなじみの魚や貝にも、途中で性別が入れ替わる種が並んでいます。
5. クロダイは3歳で道が分かれる

釣りで人気のクロダイは、2歳になるまでは例外なく雄として育ちます。その後、体長30cm前後になる3歳ごろから、雌に変わる個体と雄のままの個体に分かれていきます。
つまり小型のクロダイはほぼ雄で、大きな雌も若いころは雄だったことになります。切り替わる時期には地域によって差があるそうです。
出典:大阪府の水産関係資料
6. 甘エビは5歳で母になる

寿司でおなじみの甘エビは、生まれてしばらくは雄として過ごし、満5歳ごろに雌へと切り替わり雌として成熟するのは1年後の6歳です。
産卵は2年に1回で、抱卵する期間はおよそ11か月に及び、一生のうち産卵ができる回数はそこまで多くありません。小さな一皿の裏に、何年もの時間が積み重なっているわけです。
出典:水産研究・教育機構 日本海区水産研究所
7. 牡蠣は育つほど雌に寄る

マガキは最初の繁殖期を雄として迎える個体が多く、その割合は7割ほどとされます。次の繁殖期には、そのうちの多くが雌へと移っていきます。
体が大きいほど雌になりやすい傾向も見つかりました。卵は精子より作るのに栄養がいるため、体力がついてから雌に回る仕組みだと考えられています。
出典:奈良女子大学などの研究チーム(Journal of Molluscan Studies、2016年)
8. 大物ばかり獲ると雄が減る

ハタの仲間には、雌として育ち、大型化してから雄に変わる種がいます。アカハタでは雌の平均全長が27cm、雄は32cmほどとされます。
大物ばかり獲り続ければ、群れの雄が減りかねません。米国のハタの一種では雄の割合が2〜3%と評価され、保護区と開放区でも差が出ました。日本の裏づけは乏しく、懸念が指摘される段階です。
出典:東京都島しょ農林水産総合センター、フロリダ州魚類野生生物研究所
環境と体調で変わる性別
最後は、温度や体の状態といった外側の条件が性別を動かす話。染色体の決まりごとさえ、あとから塗り替えられることがあります。
9. 触れた場所で性別が決まる

ボネリムシという海の虫は、幼生が何もない海底に落ち着くと、そのまま雌に育ちます。ところが先に着底した雌の吻に触れると話が変わります。
その幼生は1mmから3mmほどの小さな雄にしかならず、雌の体内に入り込んで一生を送ります。着地点の違いだけで、姿も暮らしもまるで別物になってしまうのです。
※吻は頭から伸びる細長い器官のこと。雌は吻を伸ばすと1m近くになるとされます。
出典:Baltzer(1914年)ほか
10. 砂の温度が性別を偏らせる

アオウミガメの性別は、卵が埋まった砂の温度で決まります。高いほど雌に偏るため、海水温の上昇が影響すると心配されてきました。
オーストラリア北部の群れを調べたところ、若い個体の99%以上が雌という結果が出ています。南部の群れでは6割台にとどまり、同じ海でも場所によってここまで違うと分かりました。
出典:NOAAなどの研究チーム(Current Biology、2018年)
11. 暑さが染色体を上書きする

フトアゴヒゲトカゲには性別を決める染色体がありますが、卵が高温にさらされると、本来は雄になるはずの個体が雌として育ち、しかも繁殖できてしまいます。
野生でこうした個体が確認されたのは爬虫類で初めてのことで、さらに次の世代では雌側の染色体が姿を消し、性別が温度だけで決まる形へ移ったと報告されました。
出典:キャンベラ大学などの研究チーム(Nature、2015年)
12. 雌鶏が雄鶏の姿になる日

ニワトリの雌は、左側の卵巣だけが働く体のつくりをしており、右側は使われないまま小さく残っているだけです。
病気などで左の卵巣が働かなくなると、右側が卵精巣という組織に変わり、雄性ホルモンを出し始めます。すると鶏冠が立ち、羽の模様が雄らしくなり、朝に鳴くようになる例も知られています。
※卵精巣は卵巣と精巣の性質をあわせ持つ組織。
出典:ケンタッキー大学 J. Jacob(Poultry Extension)
まとめ
性別を変える生き物たちを12個ご紹介しました。
クマノミやブルーヘッドラスは群れの顔ぶれが変われば性別を切り替え、オキナワベニハゼにいたっては相手しだいで何度も往復します。クロダイや甘エビ、マガキのように、育って体が大きくなった段階で役割が入れ替わる種も少なくありません。アオウミガメやフトアゴヒゲトカゲの例を見ると、砂や卵を包む温度までが性別を左右すると分かります。
性別が状況に合わせて動くのは、限られた条件のなかで子孫を残すための仕組みなのでしょう。身近な食卓に並ぶ魚や貝にも、そんな事情が隠れています。
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更新日:2026年9月17日(木) 11:47

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