水面に仰向けで浮かび、お腹の上で貝を割る姿でおなじみのラッコ。その暮らしは、冷たい北の海を生き抜くための工夫でいっぱいです。
脂肪の層をもたないかわりに世界でいちばん密な毛をまとい、体温を保つために一日じゅう食べ続けています。よく知られた手つなぎ睡眠のように、水族館の姿と野生の姿がずれて伝わっている話も少なくありません。
そんなラッコにまつわる雑学を11個ご紹介します。研究にもとづく項目には出典を添えています。
冷たい海を生き抜く体のしくみ
ラッコが暮らすのは、真冬でも凍えるような北の海です。あの丸い体には、寒さと向き合うための仕組みがぎゅっと詰まっています。
1. 赤ちゃんは浮きすぎて潜れない

生まれたばかりのラッコの子は、バースコートと呼ばれるふわふわの綿毛におおわれています。この毛は空気をたくさん含むため体が浮きすぎてしまい、自力で潜ることができません。
母親が餌をとりに潜るあいだ、子は水面に置かれたり海藻に巻きつけられたりして待ち、心細くなると鳴いて母を呼びます。生後2〜3か月ほどで毛が生え替わると、ようやく一緒に潜れるようになります。生まれたときの体重は1.4〜2.3kgほどです。
※「バースコート」は生まれたての子だけが身につけている、空気をよく含む産毛のことです
2. 毛の密度は哺乳類でいちばん

ラッコにはアザラシのような厚い脂肪の層がありません。かわりに1平方cmあたり10万〜16万本という、哺乳類でいちばん密な毛が体をおおっています。全身では8億本ほどになり、毛のあいだにたくわえられた空気の層が断熱材のはたらきをします。
密度には部位差が大きく、尻や脇腹がもっとも密で、脚や頬は薄めです。人の頭髪が1平方cmあたり数百本程度であることを思えば、その差は歴然です。
毛が油などで汚れると断熱が壊れて命にかかわるため、毛づくろいは生死に直結します。
3. 毎日体重の2〜3割を食べる

脂肪の層をもたないラッコは、体の中で熱を作り続けるしかありません。そのため代謝率は同じ大きさの哺乳類のおよそ3倍にもなり、1日に体重の2〜3割ほどの食べ物が必要になります。体重40kgの大きなオスなら10kg前後という計算です。
消化にかかる時間は3時間ほどと速く、ウニや貝、カニ、タコなどを求めて1日に何度も潜っては食べます。たくさん食べるのは、冷たい海で体温を保つための代償ともいえます。
出典:テキサスA&M大学などの研究チーム(Science・2021年)
4. 海水をそのまま飲める

ラッコは海水を飲んで水分をおぎなうことができます。カワウソの仲間の平均の2倍ほどもある大きな腎臓を持ち、海水より濃い尿を作って余分な塩分を捨てられるためです。
アザラシやイルカなど多くの海の哺乳類は、海水を積極的には飲まないとされています。食べ物である貝やウニにふくまれる水分も、大切な水分源になっています。冷たい海で暮らすうえでは、水分をどう手に入れるかも大きな課題なのです。
器用で意外な暮らしぶり
石を使い、脇に食べ物をしまい、海の上で一生を過ごす。ラッコの日常には、思わず見入ってしまう工夫がならびます。
5. 石を道具にして貝を割る

ラッコは哺乳類では珍しい道具の使い手です。仰向けに浮かんで胸に石をのせ、そこへ貝を打ちつけて割ります。打つ速さは毎秒2回ほどで、ムール貝なら35回前後で割れるといわれます。
生まれつきそなわった行動らしく、赤ちゃんは獲物がなくても胸を叩くしぐさをします。使う頻度は地域や獲物で大きく違い、カリフォルニアでは潜水の約16%、アラスカでは約1%ほどです。196頭を追跡した2024年の研究では、道具を使うメスほど硬い獲物を食べられ、歯の傷みも少ないと分かりました。
出典:カリフォルニア大学サンタクルーズ校などの研究チーム(Science・2024年)
6. 脇の皮膚がポケット代わり

ラッコの前足の付け根あたりには皮膚のたるみがあり、とった貝や石を一時的にはさんで運べます。カンガルーのような袋がそなわっているわけではありません。
お気に入りの石を一生持ち歩くという話も知られていますが、実際には1回の食事のあいだ同じ石を使い回すだけで、採餌のたびに手ごろな石を選び直すとされています。石選びでは6〜15cmほどの大きさを重視しているようです。
7. 陸ではよたよた四足歩き

後ろ足がひれのような形をしているため、ラッコの陸上での動きはぎこちなくなります。四本足でよたよたと歩き、急ぐときも四本足のまま体を波打たせて跳ねるように走ります。動きが遅く狙われやすいので、陸から遠くへは行きません。
一生をほぼ海の上で過ごし、出産もふつうは海の上で行う、カワウソの仲間では異例の存在です。生まれた子はすぐに母親のお腹の上へ乗せられます。
8. ウニ好きは歯が紫になる

ウニばかり食べ続けたラッコは、歯や骨が紫からピンク色に染まることがあります。ウニの殻やトゲにふくまれるエキノクロームという色素が、体に沈着するためです。
博物館などに残る頭骨の標本でも、この色を確かめられます。研究者は色の出かたから、その個体がどれだけウニを食べていたかを推測できるといいます。紫がかった歯は、その一頭の食生活を伝える記録のようなものです。
※「エキノクローム」はウニの殻やトゲに含まれる赤紫色の色素です
出典:カリフォルニア州魚類野生生物局の資料
水族館と野生、ラッコの今
人気者である一方で、日本で会えるラッコは年々減っています。広く知られたイメージと、いまの状況を並べてみます。
9. 手つなぎで眠るのは水族館の姿

手をつないで眠る光景は、2011年にバンクーバー水族館の飼育個体ミロとタヌの動画が広まって有名になりました。
野生ではラフトと呼ばれる群れで浮かんで休みますが、手はつながず、長い海藻を体に巻きつけて流されないようにします。野生ラッコの保護団体の代表は、20年で約27万件の観察のうち、手つなぎを見たのは2回だけだったと報告しています。
※「ラフト」は水面に集まって休むラッコの群れのことで、いかだの意味です
10. 日本で会えるのは1館だけ

1994年には全国28館で122頭のラッコが飼育されていました。1998年のワシントン条約の改正とアメリカの保護政策で輸入が絶え、国内生まれの個体は世代を重ねるうちに繁殖が難しくなりました。
2025年1月には福岡のマリンワールド海の中道で、国内最後のオスだったリロが亡くなっています。いま日本で会えるのは三重県の鳥羽水族館にいるメイとキラの2頭だけで、この2頭はきょうだいのため繁殖はできません。
11. 北海道の海にも住んでいる

水族館でしか見られないと思われがちですが、北海道東部の納沙布岬から霧多布岬にかけての海域には野生のラッコが定着しています。かつて乱獲で姿を消したあと、歯舞群島などで増えた個体が来遊して住みついたと考えられています。
モユルリ島や霧多布岬では繁殖も確認され、2021年には10頭以上が観察されました。霧多布岬は陸から野生のラッコを見られる珍しい場所ですが、一方でウニやコンブ漁との競合という課題もかかえています。
まとめ
脂肪をもたないラッコは、1平方cmあたり10万本を超える毛と、体重の2〜3割という食事量で冷たい海を生き抜いています。石を道具に使う技も地域によって使い方が違い、硬い獲物を食べられるかどうかを左右していました。
一方、手をつないで眠る姿は水族館で広まったイメージで、野生では海藻を体に巻いて休みます。かわいらしさで語られがちなラッコですが、しぐさの一つひとつには厳しい海で生き残るための理由が隠れているようです。
北海道の海には今も野生のラッコがいます。いつか本物に会いに行ってみてはいかがでしょうか。
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更新日:2026年9月4日(金) 11:18

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