毎日の食卓に並ぶ味噌や醤油、納豆やヨーグルトは、どれも目に見えない微生物の力を借りて作られた発酵食品です。微生物が食べ物を分解することで、うまみや香りが生まれ、保存もきくようになります。
作り方をたどると、わざとカビを生やしたり、酒蔵の職人が納豆を我慢したりと、驚くような話も少なくありません。身近ですが、意外と知らないことが多い世界です。
そんな発酵食品にまつわる雑学を12個ご紹介します。研究にもとづく項目には出典を添えています。
食べ方で変わる発酵食品
いつも口にしている発酵食品も、食べる時間や温度によって中身が変わります。まずは台所ですぐ役立つ話から見ていきます。
1. 夜納豆がすすめられる理由

納豆に含まれるナットウキナーゼには、試験管の中の実験で、血の塊のもとになるフィブリンというたんぱく質を分解する働きが確認されています。ただし食べたものがそのまま血液に届くかどうかははっきりしておらず、機能性表示食品として認められているのも、血流や血圧に関する表示までです。
それでも夕食に納豆を取り入れる夜納豆がすすめられるのは、血栓が深夜から早朝にかけてできやすいとされるためで、業界団体もこの時間帯に合わせた摂取をすすめています。
※「ナットウキナーゼ」は納豆のねばりに含まれる酵素です。
2. 味噌汁は煮立てると菌が死ぬ

味噌に含まれる乳酸菌や酵母は熱に弱く、煮立てると生きた菌はほとんど残らなくなります。目安として乳酸菌は50度前後、酵母は70度前後と言われますが、菌の種類によって幅があります。
火を止めて少し冷ましてから味噌を溶くのがすすめられますが、死んだ菌も腸内の善玉菌の餌になるため、無駄になるわけではありません。そもそも市販の味噌には、発酵を止めるために加熱処理をした製品も多くあります。
3. ヨーグルトの上澄みは捨てないで

ヨーグルトを開けたときに表面にたまっている、うっすら黄色みがかった液体はホエイと呼ばれます。水に溶けやすいたんぱく質やビタミン、ミネラルを多く含んでいますが、水っぽく見えるので捨ててしまう人も少なくありません。
雪印メグミルクやグリコといったメーカーは、捨てずに全体を軽く混ぜて、そのまま食べることをすすめています。
※「ホエイ」は乳清とも呼ばれます。
関連記事:乳製品の雑学10選!日本人の多くは乳糖を分解できない体質
4. キムチの乳酸菌には食べ頃がある

キムチは発酵が進むにつれて酸味が強くなり、酸度によって初期、未熟、適熟、過熟という段階に分けられます。食べ頃とされるのは適熟の状態で、酸っぱくなりすぎた過熟に入ると、中心になる乳酸菌の種類が入れ替わっていくとされています。
漬物のように塩分の多い環境で育つ乳酸菌には、塩や酸に耐える性質を持つものが多いようです。
※「適熟」は食べ頃、「過熟」は熟しすぎた状態のことです。
出典:Patraらの総説(Frontiers in Microbiology、2016年)
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5. お酢は血糖値の急上昇を抑える

お酢の主成分である酢酸には、食べ物が胃から腸へ移動するスピードを遅らせる働きがあると考えられています。そのため食事と一緒にとると、食後の血糖値の急な上昇がおだやかになるとされています。
内臓脂肪についての報告もあり、酢酸に肥満気味の人の内臓脂肪を減らす機能があるとして、消費者庁に届け出された食品も市販されています。
出典:遠藤美智子氏らの研究(糖尿病、2011年)
職人が受け継ぐ発酵の技
発酵食品の多くは、長い時間をかけて職人が育ててきたものです。ここからは作り手の側から見た話を集めました。
6. かつお節はカビで作られる

かつお節の中でも最高級とされる本枯節は、表面にわざとカビを付ける「カビ付け」という作業を繰り返して仕上げられます。カビが内部の水分を吸い出して乾燥を進め、余分な脂肪を分解してくれるため、だしが濁りにくく澄んだ味わいになります。
カビ付けは1回に2週間ほどかかり、それを何度も繰り返すため、仕上がりまでに半年前後を要します。
※「本枯節(ほんかれぶし)」はカビ付けを繰り返して作るかつお節です。
※付けるのは体に無害な優良カビで、悪いカビを防ぐ働きもあります。
7. 酒蔵の職人は納豆を食べない

日本酒の蔵人には、酒造りの期間中は納豆を口にしないという慣習があります。納豆菌は繁殖力が強く、麹室に持ち込まれると麹菌より先に増えてしまい、思うような麹が作れなくなるためです。
しかも納豆菌は芽胞という硬い殻を作るので、煮沸してもすべてが死ぬわけではありません。秋に食べ納めをして、酒造りが終わる春まで我慢するという蔵もあります。
※「麹室(こうじむろ)」は麹を育てるための部屋です。
8. 味噌の樽から醤油が生まれた説

鎌倉時代、信州出身の禅僧である覚心が、中国の径山寺で学んだ味噌の製法を伝え、和歌山県の湯浅に広まったとされています。ご飯にのせて食べるこの味噌は、日本では金山寺味噌と呼ばれます。
その仕込みの桶の底にたまった液体がおいしかったことがたまり醤油の始まりだという言い伝えがあり、湯浅は醤油醸造発祥の地として日本遺産にも認定されています。
※「覚心(かくしん)」は鎌倉時代の禅僧で、法燈国師とも呼ばれます。
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9. 甘酒は米麹と酒粕の2種類

甘酒には、米のデンプンを麹の酵素で糖化させて作る米麹甘酒と、酒粕を湯で溶いて砂糖を加える酒粕甘酒の2種類があります。前者は砂糖を加えなくても甘く、アルコールもほとんど含みません。
飲む点滴と呼ばれるのは、体のエネルギー源になるブドウ糖を多く含み、点滴に使われる輸液の成分と似ているためだと言われます。
世界に広がる発酵の話
発酵は日本だけのものではなく、世界中の食卓を支えています。最後は少し視野を広げてみます。
10. 発酵と腐敗の紙一重な違い

発酵と腐敗は、微生物が食べ物を分解するという働き自体は同じで、人間にとって有益なら発酵、有害なら腐敗と呼び分けているだけです。
しかも何を好ましいと感じるかは、食文化によっても変わります。ある国では腐っていると嫌われる臭いの強い食品が、別の国では貴重な発酵食品として親しまれていることも珍しくありません。
11. 世界一臭い缶詰は膨らむ

スウェーデンのシュールストレミングは、ニシンを塩漬けにして缶に詰めたあとも、中で発酵が続く珍しい缶詰です。発生したガスで缶がパンパンに膨らみ、店頭にも丸みを帯びた姿で並びます。
気圧が下がると破裂する恐れがあるため、一部の航空会社が機内への持ち込みを禁じたと報じられています。開けるときは缶を傾けてガスを片側に寄せ、そこに穴を開けるのが定番です。
12. チョコの原料カカオも発酵が必要

収穫直後のカカオ豆にはチョコレートらしい香りがほとんどなく、バナナの葉などで包んで1週間ほど発酵させることで、香りのもとになる成分ができます。
チョコらしい香りに変わるのは、そのあとの焙煎で熱を受けたときです。発酵の間に渋味のもとになるポリフェノールが減ることも、おいしさにつながっています。
出典:夏目みどり氏(明治 技術研究所)の解説(化学と生物、2018年)
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まとめ
発酵食品は、微生物が食べ物を分解することで、うまみや香り、保存性が生まれた食べ物です。味噌汁を煮立てると菌が死んでしまうように、食べ方ひとつで中身が変わるものもあります。
かつお節のカビ付けや、蔵人が納豆を断つ慣習からは、目に見えない菌を相手にしてきた作り手の工夫が伝わってきます。缶の中で発酵が続くシュールストレミングのように、国が変われば扱いも大きく変わります。
発酵と腐敗を分けているのは、人間にとって都合がよいかどうかだけです。冷蔵庫にある一品も、そう考えると少し違って見えるかもしれません。
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更新日:2026年9月8日(火) 10:05

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