イカの雑学12選!目玉はサッカーボールほどの大きさ
刺身や干物でおなじみのイカですが、海の中での姿は驚くほど知られていません。
2025年には、全長7mにもなる巨大なイカが泳ぐ様子がようやく撮影されました。
動物界でいちばん大きな目を持ち、脳はドーナツのような形をしていて、海面から飛び出して空を滑るイカまでいます。
食卓の上からは想像もつかない、生き物としてのイカの素顔をのぞいてみましょう。
そんなイカにまつわる雑学を12個ご紹介します。
研究にもとづく項目には出典を添えています。
深海にひそむ巨大なイカ
まずは、めったに人前へ姿を見せない深海のイカたちからです。
長いあいだ想像でしか語られてこなかった、その姿と体のつくりを見ていきます。
1. 命名から100年後の初撮影
ダイオウホウズキイカは、体重では世界で最も重い無脊椎動物と考えられています。
ただし深海にすむため、これまでは海の生き物の胃に残ったくちばしや腕の断片から、その姿を組み立てるしかありませんでした。
2025年3月、南大西洋の南サンドウィッチ諸島沖の水深600m付近で、無人探査機がついに生きて泳ぐ姿をとらえます。
写っていたのは体長30cmほどの透明な幼体で、7mにもなる成体とは似ても似つかない姿でした。
学名がつけられてからちょうど100年目の出来事です。
※無脊椎動物は、背骨を持たない生き物のことです。
出典:シュミット海洋研究所/オークランド工科大学Kat Bolstad博士ら(2025年、Ocean Census航海)
2. サッカーボールほどの目玉
ダイオウホウズキイカの目は直径27〜28cmほどあり、動物の中で最も大きいとされています。
サッカーボールくらいの大きさで、人間の目の10倍以上です。
これほど大きな目は、小さな獲物を探すためではなく、近づいてくるマッコウクジラに気づくためだと考えられています。
クジラが泳ぐと、まわりの発光生物が刺激されてぼんやりと光ります。
その淡い光を手がかりにすれば、水深500mより深い場所なら約120m先から気づける、と試算されました。
出典:ルンド大学Dan-Eric Nilsson、Eric Warrantらの研究チーム(Current Biology、2012年)
3. 脳はドーナツのような形
イカやタコの仲間の脳は、輪のように食道を取り囲んでいます。
ドーナツの穴にあたる部分を、食べ物が通っていくわけです。
体重300kgのダイオウホウズキイカでも脳は100gに届かず、その最大8割ほどが目から届いた情報の処理に使われていると言われます。
食道は直径1cmほどしかないので、獲物はくちばしで小さく切り分けてから飲み込みます。
※食道は、口から胃へ食べ物を運ぶ管のことです。
出典:ニュージーランド国立博物館テ・パパ
4. 肘のように折れ曲がる腕
マグナピンナは、腕と触腕が胴体の20倍ほどもある深海のイカです。
腕の途中が直角に折れ、肘のように見えるのが特徴で、全体では6.4mに達した例も報告されています。
それでも胴体は30cmほどしかありません。
長い腕を海底に垂らして餌をとるのではないかと考えられていますが、暮らしぶりはほとんど分かっていません。
観察例は数十件ほどで、その多くは石油やガスの開発に使われた無人探査機がたまたま撮影したものです。
※触腕は、餌をつかまえるときに伸びる特に長い2本の腕です。
出典:アメリカ海洋大気庁(NOAA)Ocean Exploration
体のつくりに隠れた工夫
柔らかく見えるイカの体には、生き方に合わせた仕掛けが詰まっています。
骨や浮き方、色の見え方まで、少し中身をのぞいてみましょう。
5. 背中に残った貝殻の名残
イカはアサリやサザエと同じ軟体動物の仲間で、祖先はもともと殻を背負っていました。
今のイカの体の中には、その殻が薄い板のように退化した軟甲が残っています。
プラスチックのような手ざわりで、主な成分はカニやエビの殻と同じキチンです。
コウイカの甲はもう少し殻らしさを残していて、石灰質のまま浮き沈みを調整する役目も担います。
重い殻を手放したことで、イカは素早さと柔らかさを手に入れたと考えられています。
※軟甲は「なんこう」と読み、ラテン語で剣を意味するグラディウスとも呼ばれます。
6. 食べてもおいしくない体
深海の大きなイカの多くは、体の中に塩化アンモニウムの液をため込んで浮いています。
この液は海水より軽いため、気体の浮き袋を使わずに体を浮かせられます。
気体と違って深いところでも潰れず、急に深さを変えても平気なのです。
ただし代償として身にアンモニアのにおいが残り、人が食べてもおいしくありません。
ダイオウイカを調理して口にした研究者は、本当にひどい味だったと語っています。
出典:トゥー・オーシャンズ水族館/スミソニアン国立自然史博物館Clyde Roper博士
7. 色が見えないのに化ける
イカは体の色を周囲にそっくり合わせる名人ですが、目の中で光を受け取る物質は1種類しかありません。
人が色を見分けられるのは3種類の物質を使い分けているからで、1種類では明暗しか分からないはずなのです。
そこで、レンズを通ると色ごとにピントの合う位置がずれる性質を使っているのではないか、という説が提唱されています。
U字型の変わった瞳孔がこのずれをわざと大きくし、レンズを前後に動かしながら、どの色でピントが合うかを探っているという考え方です。
出典:ハーバード大学Christopher Stubbs、カリフォルニア大学バークレー校Alexander Stubbs(PNAS、2016年)
8. 左右で違う模様を出す
イカの皮膚にある色素の袋は神経で直接動かされていて、体の右と左で別々の模様を出すことができます。
ヤリイカの仲間では、メスの側に求愛の模様を見せながら、反対側にいるオスには威嚇の模様を向ける行動が観察されました。
二重の信号と呼ばれる使い分けです。
コウイカの一種では、この技を使うのはライバルのオスが1匹とメスが1匹という場面に限られ、ほかのオスがいて見破られそうなときには使わないと報告されています。
出典:レスブリッジ大学Jennifer Matherら(2003年)/マッコーリー大学Culum Brownら(Biology Letters、2012年)
海で生きぬくためのふるまい
イカは大きな魚にも海の獣にも狙われる、食べられる側の生き物でもあります。
だからこそ、身を守り子孫を残すための行動が磨かれてきました。
9. 海面から飛び出して滑空
イカが空を飛ぶ話は昔から語られてきましたが、その様子が写真で細かく分析されたのは2013年のことでした。
北太平洋で撮影された連続写真から、水を噴いて飛び出し、空中でも漏斗から水を噴いて加速し、腕とヒレを翼のように広げて滑空し、姿勢を整えて着水する、という4段階が確かめられます。
体長20cmほどのイカが30m以上を進み、その速さは秒速11.2m、時速にすると約40kmにもなりました。
マグロなどの追跡から逃げるための行動だと考えられています。
※漏斗は、イカが水を吹き出す管のような器官です。
出典:北海道大学 村松康太、山本潤らの研究チーム(Marine Biology、2013年)
10. 光る腕を囮にして逃げる
深海にすむオクトポテウティス・デレトロンというイカは、敵に触れられると腕を切り離して逃げます。
切り離すのは腕全体ではなく、触られた場所のすぐ内側だけで、必要な分しか捨てない節約ぶりです。
切れた腕の先には発光器があり、光り続けたり点滅したりしながら、最大で30秒ほど動き続けます。
敵の目がそちらに向いているあいだに、本体は墨を吐いて暗い海へ消えるわけです。
自分から敵に腕を巻きつけ、置き土産にする様子も観察されています。
※オクトポテウティス・デレトロンは学名Octopoteuthis deletronで、決まった和名はありません。
出典:Stephanie L. Bush(研究当時MBARI)(Marine Ecology Progress Series、2012年)
11. 腕で卵を抱き続ける母
多くのイカは卵を産みっぱなしにして死んでいきますが、深海のゴナタス・オニクスというイカは違いました。
母イカは3000個ほどの卵の塊を腕で抱え、水深1500〜2500mあたりをゆっくり漂いながら守ります。
抱えている期間は卵の大きさと水温から9か月ほどと推定され、その間は卵の塊が口をふさぐため、餌を食べられないと考えられています。
動きが鈍って自分も狙われやすくなり、孵化を見届けたあとは長く生きられないとみられています。
※ゴナタス・オニクスは学名Gonatus onyxで、北太平洋の深海にすむイカです。
出典:ロードアイランド大学Brad Seibel、MBARI Bruce Robison、Steven Haddockら(Nature、2005年)
12. 守られているのは海のほう
富山湾のホタルイカは胴の長さが4〜6cmほどの小さなイカで、皮膚に700個から1000個の発光器を持ち、腕の先にも3個ずつ並んでいます。
春になると深海から浅い海へ産卵のために上がってきて、湾の一角が青白く光ります。
この光景は1952年にホタルイカ群遊海面として国の特別天然記念物に指定されましたが、指定の対象はイカそのものではなく、群れが集まる海面のほうです。
生き物ではなく海の一区画が守られている、めずらしい形の天然記念物と言えます。
出典:富山県ほたるいか協会/国指定特別天然記念物(1952年)
まとめ
ダイオウホウズキイカは、名前がつけられてから100年目にしてようやく泳ぐ姿をとらえられ、その目はサッカーボールほどもありました。
色を見分けられないはずのイカが体の色を変え、光る腕を囮にして逃げ、海面から飛び出して滑空します。
こうして並べてみると、イカの驚きの多くは、重い殻を手放して柔らかい体になったところから始まっているように見えてきます。
守りを捨てた分だけ、逃げ方や隠れ方、仲間への伝え方を磨いてきたわけです。
次にイカを食べるときは、身の中に残った薄い軟甲を探してみてください。