サンマの雑学11選!胃がないから丸ごと食べられる
秋になると当たり前のように売り場へ並ぶサンマは、身近すぎてわざわざ調べる気にならない魚かもしれません。けれど少しのぞいてみると、胃を持たないまま一生を終える体のつくりがあったり、店頭に並ぶほとんどが生まれて1年の若い魚だったり、初競りで1匹8万円台の値がついた話が出てきたりします。
世界で一番サンマを獲っている国も、いつのまにか日本ではなくなりました。
そんなサンマにまつわる雑学を11個ご紹介します。研究にもとづく項目には出典を添えています。
サンマの体にひそむ不思議
焼いて食べるだけではもったいないほど、サンマの体には変わったつくりが詰まっています。まずは、外からは見えないところから覚いていきましょう。
1. サンマには胃がない
サンマは口から肛門までの消化管が一直線につながった無胃魚で、胃を持ちません。食べたものはおよそ3時間で3分の2以上が体の外へ出ていきます。
漁が行われるのは餌を食べたあとの夜中なので、水揚げされる時点で腹の中はほとんど空っぽです。はらわたごとおいしく食べられるのは、この素通りに近い消化のしくみのおかげといえます。
※「無胃魚(むいぎょ)」は、胃を持たない魚のことです
出典:全国さんま棒受網漁業協同組合
2. はらわたの鱗は自分のもの
サンマの鱗は小さくて剥がれやすく、棒受網で獲られてから水揚げされるまでの間にほとんど落ちてしまいます。その混乱のなかで、剥がれ落ちた自分や仲間の鱗を大量に飲み込み、内臓にためたまま揚がってくる個体も少なくないとされます。
焼き魚のはらわたにときどき混じるざらつきには、そんな事情が隠れているわけです。
3. 寿命2年、店頭の多くは1歳魚
サンマの寿命はおよそ2年しかありません。同じ大衆魚でも、マイワシは最大で8年、マサバは10年ほど生きるとされ、それに比べるとかなり短い一生です。
店頭に並ぶ体長30センチ前後のサンマも、その多くは生まれて1年しか経っていない1歳魚だといいます。私たちが秋の味として楽しんでいるのは、駆け足のような一生のちょうど半ばあたりということになります。
出典:全国さんま棒受網漁業協同組合
4. 口先の黄色は脂ののった証
サンマを選ぶときは、口先が黄色いものほど脂がのっている証拠とされています。さらにおいしい個体は尾の先まで黄色くなるといわれ、ごくまれに全身が黄色い個体が獲れて、高値で取引されることもあるそうです。
ただし、なぜ黄色くなるのかは今のところ解明されていません。目印としては昔から使われてきたのに、理由だけが分からないままの色なのです。
出典:全国さんま棒受網漁業協同組合
5. 泳ぐ姿が見られるのは1か所
生きて泳ぐサンマを常設で展示している水族館は、福島県のアクアマリンふくしまが日本で唯一です。
鱗が剥がれやすくて網ですくえないうえ、とても神経質で、わずかな刺激におどろいて水槽の壁にぶつかってしまいます。飼育の難しさが、そのまま見られる場所の少なさになっているわけです。
同館は水槽の中での繁殖に世界で初めて成功し、いまも8世代目まで続けています。
出典:アクアマリンふくしま
サンマの名前と歴史をたどる
「秋刀魚」という字も、世界共通の学名も、実は後からついてきたものです。呼び名にまつわる来歴をたどってみます。
6. 学名サイラは和歌山の方言
サンマの学名は Cololabis saira といい、後半の saira は紀伊半島でサンマを指す古い方言名「サイラ」に由来します。名づけられたのは1856年で、ペリー艦隊が日本から持ち帰った個体をもとに記載されたとみられます。
世界共通の名前の一部に、紀州あたりの土地の言葉がそのまま残っている形です。
7. 秋刀魚と書くのは大正から
秋刀魚という漢字表記が広まったのは大正時代とされ、それ以前は書き方が定まっていませんでした。夏目漱石は『吾輩は猫である』のなかで、サンマを「三馬」と書いています。
いまの表記が一気に知られるようになったのは、1922年に発表された佐藤春夫の詩「秋刀魚の歌」がきっかけといわれます。古くからありそうな字面ですが、歴史は意外と浅いのです。
8. 目黒のさんまの目黒に海はない
落語「目黒のさんま」で知られる目黒は、海辺の町ではありません。江戸時代の目黒は将軍が鷹狩りをする鷹場で、海からは離れた土地でした。
当時のサンマは脂が多く、庶民が食べる下魚とされていた魚です。殿様が口にするようなものではない、という前提があってこそ、あの噴のおかしみは成り立ちます。
高級魚あつかいされるいまとは、立場がすっかり入れ替わりました。
※「下魚(げうお)」は、格の低い魚とされたものを指す言い方です
出典:目黒区
いま、サンマに起きていること
ここ数年、サンマをめぐる数字は大きく揺れ続けています。最後は現在進行形の話を3つ並べてみます。
9. 去年は回復、今年は一転
2025年の全国の水揚げは約6万4700トンで、前年より67パーセント増え、3年続けての増加となりました。6万トンを超えたのは7年ぶりです。
ところが2026年の調査では、日本の近海を含む海域の分布量が42.9万トンと、前年の109.9万トンから4割以下に落ち込みました。2003年の調査開始以降では、ほぼ最低の水準です。
戻ったと思った矢先の急変で、読みにくい状況が続いています。
※分布量は調査海域のうち1区と2区を合わせた値で、日本近海全体の資源量とは異なります
出典:水産研究・教育機構「2026年度サンマ長期漁海況予報」、全国さんま棒受網漁業協同組合
10. 初物1匹に8万8880円
2026年7月9日、北海道の釧路港で開かれたサンマの初競りで、1キロ44万円という釧路の歴代最高値がつきました。競り落とした鮮魚店が店頭に並べたのは、1匹8万8880円という値札のついたサンマ6匹。
この6匹は、1人の男性客がまとめて買っていき、その場で売り切れました。初物にはそれだけ払う価値がある、と考える人がいるということです。
出典:北海道文化放送(2026年)
11. 日本はもう漁獲量1位ではない
サンマを世界で一番獲っている国は、もう日本ではありません。2023年の漁獲量は台湾が甄5.0万トン、中国が甄3.9万トン、日本は甄2.6万トンで3位にとどまっています。
かつては日本がほぼ独占していた魚で、台湾が本格的に獲り始めたのは1980年代の終わりごろでした。日本の秋の味覚は、いつのまにか各国が分け合う資源になっています。
出典:水産庁・水産研究・教育機構「令和6年度 国際漁業資源の現況」
まとめ
胃がないから、餌が体を素通りしてはらわたまで味わえること。寿命はおよそ2年で、店頭に並ぶ多くが生まれて1年の若い魚であること。そして、世界一の漁獲国はもう日本ではなく、初物には1匹8万8880円という値がつくこと。
並べてみると、サンマは短く生きる魚であると同時に、海の変化や国どうしの事情にいちばん振り回される魚でもあると分かります。安いから当たり前に食べてきた魚が、いつのまにかそうではなくなっている、ということでもあります。
今年の一尾は、少していねいに味わってみてください。